まだまだ寒い日が続いてますね。
強い寒波に耐えられるコートが日々活躍しております。
今回は昨年オーダーで作ったアルスターコートのご紹介、
レビューをしたく記事に書かせていただきます。
長くなりますので、以下目次です。
1.アルスターコートとは
2.コートのデザイン、型紙
3.コートの色について
4.コートの生地について
5.コートの着用感について
6.映画とコート
それでは本編に入ります。
1.アルスターコートとは
紳士服のコートというと、チェスターフィールドコートやステンカラーコートが思い浮かび、アルスターコートというのはあまり聞き馴染みがないかと思います。
実際ワタクシも名称を知ったのは最近でして、なんとなく映画やエルメスのコレクションでこんなコート見たことあるなぁ、くらいの感覚で、正式名称は知らず、ダブルのコートという曖昧な認識でした。
↑私物アルスターコート
アルスターコートというのは歴史が古く、トレンチコートやポロコートの根源となるコートで、貴族が冬旅をするときに着ていたものだといわれています。昔は馬車で移動していたので、その寒い馬車内で長時間過ごすため、ダブル仕立てにして冷たい風が服内に入らないよう、凌いでいたようです。
チェスターフィールドコートのようなフォーマルなコートではないですが…
クラシックでエレガントで、ビジネスにも着れる、とても便利なコートです。
どこかストイックで堅い印象を受けるチェスターフィールドコートとは一線を画して、ゆったりと余裕がある…しかしオーバーサイズではない、程よくシェイプが効いていて柔らかな印象を与えてくれます。
チェスターフィールドコートが直線美だとするなら…
アルスターコートは曲線美だと、個人的には感じています。
エレガントできちんとしたコートでありながら、堅く気難しい印象を与えない。
そんなアルスターコートがワタクシは大好きです。
2.コートのデザイン、型紙
今回ご紹介する私物のコートの仕様は、特にシンプルでまっさらなものになっていて、アルスターコートの中でもフォーマルよりで、ビジネス、カジュアル問わず様々なシーンで着れるコートだと感じています。
例えば、袖口は何も無い仕様になっています。袖ボタンや折り返し袖(ターンナップ)仕様のものも少なくないですが、こちらはただ腕を通すだけの筒、というシンプルな形です。

ターンナップ仕様もエレガントなのですが、このコート生地は厚手なので、折り返すとボリュームが出過ぎてしまう、という理由もあります。
ポロコートのように背面の腰部にベルトが付いているものもありますが、そちらも排除されています。

色々なテーラー屋さんでアルスターコートを作れますが、ワタクシが選んだテーラー屋さんの基準としましては型紙の秀逸さです。具体的には
襟の首廻りにおける吸いつき
肩廻りのカーブ
胸廻りのふっくらしたボリューム
腰廻りにかけるシェイプ
Vゾーン(襟の深さ)のバランス/ボタンの配置、間隔
コートの顔ともいえる襟の形
などのポイントをチェックして選んでおります。
特に襟の形が一番アルスターコートらしさを出せているな、と思ったところが大きいです。
3.コートの色について
アルスターコートの生地色はキャメルやブラウンといったアースカラーが多いです。
やはり旅用のコートなので、郊外で着ることを想定し、森や山に馴染む色にしているのかと思われます。
ですがワタクシのコート生地色はグレーです。
ミディアムよりやや濃い、チャコールとの中間くらいのグレーでしょうか。
濃いグレーというのも、暑い時期には着れない、冬らしい色かと思います。
無機質だけれど、なんとも不思議な暖かみを感じさせる色ですね…。
アースカラーの生地ですと、やはり郊外で着るのに向いていますが、グレーにすることで都会でも着れるという、まさに良いとこ取りのコートです。
※グレーはコンクリート、アスファルトを思わせる都会の色
※アースカラーは木の幹、緑、土、砂を思わせる郊外、田舎の色
良いとこ取り、なんて都合の良すぎることをやると、どっちつかず、中途半端。
二兎追うものは一兎も得ずとなりがちですが…
そこはやはりテーラー屋さんの腕の見せ所。
見事に『一石二鳥』なコートに仕立てていただきました。
4.コートの生地について
更にコートの生地なのですが、このイギリス製の生地は元々ダッフルコートに使われているもので、柔らかく手触りがとても心地よいです。
↑フード付きで、前立ての鹿角トグル留めが特徴のダッフルコート(参考画像)
しかし肉厚で温かく、表面の奥にがっしりとした、重みのある層が存在し、耐久性があることを認識できます。
古着で売られているダッフルコートを見ると、イギリス製のものが多くそのほとんどが、生地がまだまだがっしりと生きているくらいなので、このコートも長く着ていけるだろうなと、期待できます。
この点も含めると一石二鳥どころか、四鳥ですね。
5.コートの着用感について
次は着用感に関して書いていきます。
ここが本題といいますか、この記事でワタクシが一番お伝えしたいことになります。
そもそも今回、何故コートをオーダーしたのかといいますと…
スーツやジャケットの上に着て、ちょうどいいサイズ感のコートが、ずっと欲しかったからです。
スーツの上に着る紳士もののコートというと、今はほとんどがステンカラーコート(バルマカーンコート)になるかと思います。それかダウンジャケットを着ている方が多いですよね。
ダウンジャケットに関しては本来紳士服でなく、アウトドアウェアでありますので、今回の内容からは除外させていただきます…。
話を戻させていただきますと、量販店でよく見るのはステンカラーコートなのですが、薄手の生地で主に風を遮断するだけの機能を持つこのコートは、ややオーバーサイズでガバッと、ポンチョのように羽織る着方でも非常にかっこいいです。むしろそういった着方が良いものだと思います。
身体に合わせてジャストサイズを狙わなくても、ゆったり目に着て十分にかっこいいので…
サイズ選びで失敗することは少ないんですね。
↑私物のステンカラーコート。父が着ていたものを譲り受けました。
つまりこれは買う側としても売る側としても、都合の良いコートなんです。
ジャストサイズで着てもいいですし、ゆったり目に着てもいいのですから、より幅広い層の人が買うことができますし、コートの下にジャケットやニットを着込んでも着膨れせずにフィットします。
このような合理的理由があり、日本ではステンカラーコートが主流になっているのではないかなと、ワタクシは思っております。
では温かい厚手のコートはどうでしょうか。
ウール生地のチェスターフィールドコート、ポロコート、Pコート、そしてアルスターコート。
これらのコートは厚手でしっかりと芯があり構築的なので、スーツやジャケットの上から着ると着膨れしやすく、特に腕回り、胸回り、肩回りはパツパツになってしまったことがある…そんな方も少なくないのではないでしょうか。
ワタクシ自身まさにそういった経験をしており、百貨店やセレクトショップで色々なコートをジャケットの上から試着してみましたが、やはり腕や肩がきつく、下手すると入らない、ということも多かったのです。
ワンサイズ大きめでもきつく、ツーサイズ大きめになると身幅が大きすぎる、袖丈が長すぎる、といった状況になるんですね…。
サイズの大きなものを買って大きすぎる箇所を詰める、というのも一つの手ではあります。
ですがお直し屋さんに持っていけば、ただでさえ高価なコートに、更にお直し代として費用が嵩むのです。特にコートのお直しは高くつきます。
それはちょっと理不尽ですよね…泣
そんな訳でして、社会人になってから20年以上でしょうか。スーツやジャケットの上から着てもちょうどいい、温かい厚手のコートに出会えることはなく、昨年明けにオーダーしてしまえ!と心に決めたのです。
結果、スーツやジャケットの上から着ても、素晴らしく程良くジャストフィットするコートが出来上がりました。
なぜもっと早くオーダーしなかったんだろう…と思うくらいの出来映えでした。今まで高価な既製品コートを試行錯誤しながら着続けてきまして、無駄だったとまでは言いませんが、余計な出費と労力を注ぎ込んでしまったことは否めません…。
ちなみにどうやって試行錯誤しながら、その既製品コートを着ていたのかといいますと…
会社のロッカーにジャケットを置いておき、出勤退勤時はシャツ+ニットの上からコートを着ていました汗
こうするとジャストサイズで格好良くコートを着れて、打合せがある日などは会社でネクタイを締めてジャケットを着る、そしてコートをロッカーに置いていく、ということをやっていたんですね笑
今思えばなんと複雑なライフスタイルだったのでしょうか。
そういった意味では、紳士服で一番オーダーし甲斐があるのはコートなのだと思います。
スーツは既製品でも、よほどサイズを間違えない限りきつい、着れないということはあり得ないですからね。今は吊るしのスーツでもショルダーの箇所が仮縫いになっていて、袖丈くらいは調整できますし…。
更にこのコートに関しましては、先述しましたとおり、生地ががっしりと重いです。
ハンガーにかけてクローゼットにしまおうとするときに、持ち上げる二の腕が疲れてしまいます。
しかし実際に着るとどうでしょう。重みで疲れたり、身体が凝ったりすることは全く無いです。
これはきちんと身体に合わせた作りになっているので、コートの荷重が身体に広く分散されて、重みを感じにくく、局所的な負担を軽減しているからだと思われます。
バックパック界のロールスロイスといわれる、グレゴリーの登山用リュックも同じような考え方で作られていますね。
テント泊で何泊もするとなると、担ぐ重量は20キロ30キロ超えは当たり前の世界。
それをショルダーハーネスだけで背負って急斜面を登っていたら、あっという間に肩がちぎれるかというくらい痛くなるでしょう。
なので、グレゴリーのリュックは接する背中面全体で背負うように作られていて、リュックの荷重がうまく分散されます。
話が脱線してしまいましたが…オーダーできちんと身体に合わせて作られたコートにも、同じことがいえるんですね。
コートのサイズ感は、見映えだけでなく身体的な負担の面でもすごく重要だということです。
6.映画とコート
余談になってしまいますが、服をどういった世界観を思い浮かべて着るか、というのも服を着ることを楽しむ上でとても大事なことです。
憧れの俳優さん、好きなモデルさん、アーティスト…そういった人たちが着ていたものを再現するというのもいいでしょう。
しかしなんといっても、大好きな映画やドラマで着られていたものを思い浮かべながら着る…
というのが一番どっぷりとその世界観に浸れるのではないでしょうか。
今回の場合はグレーのアルスターコートになりますが…
ワタクシの大好きな金田一耕助シリーズ、サスペンス映画の『悪魔の手毬唄』(1977)に登場する、磯川警部がちょうどグレーのダブル襟コート、アルスターコートらしきものを着ているんですよね…
これがとてもかっこいいのです。
この磯川警部を演じているのは、勝新太郎氏の兄である若山冨三郎氏でして、劇中ではとても味のある、渋く優しく、かっこいい演技をしていらっしゃいます。特に映画のラストシーンの、汽車に乗る金田一耕助を見送るシーンは何度観ても泣けてしまいますし、古き良き日本映画って良いなぁ〜最高だなぁ〜…と思えます。
磯川警部は、キャラクター的には人情深くとにかく面倒見が良い、優しさと強さを兼ね備えた熟練の刑事といった役柄です。
それに対して、加藤武氏が演じる立花警部補は、ブラウンのシングルチェスターフィールドコートを着ています。こちらもすごいカッコいいんですよね〜仕立てもサイズ感もバッチリです。
チェスターフィールドコートは都会で着る、もしくはフォーマルなコートで、色はダークネイビーが多いように思います。
ですが、色をブラウンとすることで、チェスターフィールドコートを郊外に馴染むようにしているのかな…と思います。
この立花警部補は、キャラクター的には堅物な刑事といった役で、彼なりに推理をするも、思考が柔軟で視野が広い金田一耕助にことごとく翻弄されます。
さて、この映画の舞台、即ち事件が起こるのは山奥の村中でして、磯川警部は都会の方の部署からやって来ているような設定と思われます。
元々この村で起きた過去の迷宮入り事件に関わっていて、部署が変わったあとも時々訪れているようです。
それに対して、立花警部補の方は地元の所轄から来ています。
都会住みの人情家な磯川警部はアルスターコートのグレーを着る、即ち旅のコートを都会に寄せて着ている…
郊外住みの堅物警部補はチェスターフィールドコートのブラウンを着る、即ち都会のコートを郊外に寄せて着ている…
どちらもコートの色をあえて変えることで、コートの持つイメージを中和しているように思えます。
これはただの偶然なのでしょうか。
そこまで考えられていたのか、真相はわかりませんが、実際に警部たちの着ているコートはこの映画に、すごくマッチしていると思います。
現代で着られてるようなとにかくオーバーサイズで、芯があるのか無いのか、わからないようなコートでなく…
役者の体型に合わせてきちんと構築的に仕立てたコートで、色も形も役柄、映画の舞台と見事に調和しています。
ちなみに映画のロケ地は山梨の山中なのですが、昔ながらの冬の里山の風景が美しく、寂しげで、しかしどこか不気味で…そんなところもワタクシはとても好きなのです。
↑冬枯れの集落(参考画像)
寒い冬枯れの山に囲まれた村を、金田一耕助と共に捜査する刑事たち…
1つ1つのシーンがものすごく絵になるんですよねぇ。
服装の観点からしても、風景をただ見ていても、『悪魔の手毬唄』はすごく楽しめる映画です。
いつの間にか『悪魔の手毬唄』の紹介になってしまいましたが…汗
洋画にはたくさん、格好良いコートの着こなしがありますが、昔の邦画にも発見できたということをお伝えしたかった次第です。
オーダーしたコートを着て、映画の中の世界観に浸るのも、とても楽しく素敵なことです。
今回の記事が少しでも参考になり、より良い服装生活を送っていただければと思います。
それではまた!